「年金の運用は信賞必罰 試練のアクティブ投資家 」

「年金の運用は信賞必罰 試練のアクティブ投資家 」

日経編集委員 前田昌孝 7/11 5:30

「運用成果が上がらなければ、意味がない」。公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は2018年度から、アクティブ運用の機関投資家に支払う運用報酬の出来高払いを強化した。運用が良好ならば上限なく報酬を払う一方、不振ならばパッシブ(指数連動型)運用と同水準に下げるという。米国発の貿易摩擦の激化もあって株式相場の先行きは不透明感が高まるが、運用担当者は荒波を乗り越えないと、自分の人件費もまかなえない。

GPIFは17年度末で156兆3832億円の運用資産を持つ世界最大の機関投資家だ。ただ、実際の運用は国内債券の一部(25兆1536億円)とオルタナティブ資産の一部(1549億円)を自家運用しているのを除いて、公募して集めた外部の運用受託機関(機関投資家)に委ねている。運用資産(自家運用分を含む)のうち財投債を除く155兆4868億円を市場で運用しており、多くをパッシブ運用に、一部をアクティブ運用に振り向けている。

運用対象は国内債券(基本ポートフォリオ上は35%)、国内株式(25%)、外国債券(15%)、外国株式(25%)などに分かれている。実際に運用資産の26.03%、40兆6995億円を振り向けている国内株式をみると、アクティブ運用は12の機関投資家が合計で3兆8920億円(2.49%)を預かっている。パッシブ運用は6つの機関投資家が合計で36兆8076億円(23.54%)を預かっている。国内株式に占めるアクティブ運用の割合は低下傾向にあり、17年度には9.52%になった。

17年度のGPIF全体の収益額は10兆810億円の黒字、収益率は6.90%だったが、このうち国内株式では過半の5兆5076億円を稼いだ。国内株式の収益率は15.66%だった。ベンチマークである配当込み東証株価指数(TOPIX)は15.87%上昇したから、実際の収益率はこれを0.21ポイント下回った。ただ、アクティブ運用の収益率は17.91%とベンチマークを2.04ポイント上回った。パッシブ運用の収益率が15.44%と振るわなかった。

17年度は株式のアクティブ運用は十分に責任を果たしたように思えるが、過去10年間を振り返ると、ベンチマークを上回ったのが5回、下回ったのが5回と五分五分の勝率にとどまった。国内株式に限った話ではないが、GPIFは14~16年度のアクティブ運用の実績を分析し、「芳しいものではない」「目標超過収益を達成しているファンドは少数にとどまる」(GPIFワーキングペーパー)と厳しく評価している。

この原因の一つとしてGPIFは「現行の固定報酬やゆるやかな実績連動報酬の仕組みのもとでは、運用成果のいかんにかかわらず相応の報酬が支払われてしまうことから、目標超過収益率を適切に設定し、超過収益獲得のために創意工夫を重ねたり、運用キャパシティーを管理したりする動機付けが運用受託機関サイドで働かない」と考えたという。そこで18年度から始まったのが実績連動報酬体系の強化だ。信賞必罰が強まったといっていい。

これまでの実績連動報酬には上限があり、上下限の幅も狭かった。「アクティブ運用を実施する人件費等の経営コストにも配慮する形となっていた」という。しかし、GPIFとしては「基本的にパッシブ運用のみで年金財政上の運用目標を達成することができ、アクティブ運用はあくまでも超過収益の確信がある場合のみ実施すればよいものであることを踏まえると、成果の出ないアクティブ運用に対して多額の報酬を支払うことについては抵抗感が強い」。こうした検討の結果、報酬の下限は年金基金など機関投資家向けパッシブ運用の水準を採用することにしたと説明している。

公的年金の運用を受託する機関投資家からみれば、今後は目標超過収益(ベンチマークを何ポイント上回るかの目標値)を達成して初めて従来通りの運用報酬を得られることになる。目標超過収益を上回れば、運用報酬も上限なく増えるが、逆に下回れば、運用担当者の人件費も出ない恐れがある。多数のアクティブ運用者のリターンの平均がベンチマークであることを考えると、目標超過収益の確保も容易ではなさそうだが、さらにこれを上回る運用成果を出さなければ、プラスアルファの実績連動報酬にはありつけない。

GPIFに公的年金の運用を任せている国民からみれば、目標水準の収益すら達成できない機関投資家に、眠り口銭のような運用報酬を払うのは許せないだろう。その意味でGPIFの動きは興味深い。機関投資家も運用成績向上への圧力が高まれば、投資先の上場企業に対し、不採算事業の整理、株式持ち合いの解消、増配や自社株買いなどを強く求めるようになり、株式市場の活性化にも結びつきそうだ。

貿易摩擦の激化を受けて不透明感の強い株式市場では日々、短期売買の投資家に株価が振り回されている。しかし、6日に米国と中国が340億ドル相当の輸入品に相互に関税をかけ始め、一つの山は越えた。「これまでのところ、景気への影響は限定的」(日本総合研究所の井上肇副主任研究員)という。次の山は8月といわれている。「鬼の居ぬ間に洗濯」というわけで、機関投資家もねじり鉢巻きをして運用に取り組むのではないか。

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